top of page
08point03.png

​デイン・ソーソン

​役職とスペック

貨物係候補生として<女王号>に乗り組み、以降、貨物主任代理(ヴァン・ライク不在のため)、貨物係助手、貨物主任へと昇格していきました。

6巻でトゥーイという部下をもち、中間管理職としてちょっと貫禄も見えたりします。

貨物係見習いというのは英語では”cargo apprentice”となっていますが、貨物の管理にとどまらず、他の惑星の商人や異星人との取引交渉にあたる外交係の役割を担っています。

積荷の扱いや格納手順はもとより、通商手続き・市場論・地球外心理学・宇宙法律などが専門分野であり、各惑星の言語と文化を理解し渉外をこなしています。

その言語能力と記憶力は本編中でもいかんなく発揮され、目標とするヴァン・ライク主任にほぼ並ぶまでに成長しました。

​ただ、<女王>号は大きな組織ではないので、専門分野だけに固定せず、ときに通信士ときに料理人を務めることも。

料理は2巻でムラが倒れたときに任され、ジェリコにシチュー(邦訳では「ごった煮」)を褒められて以降、その道に目覚めたのか3巻でも船長の友人の訪問に際し調理を担当しています。食文化の違いを認識し、タブーの食材を選り分けるプロの仕事っぷり。それも口笛を吹きながらという余裕で!

苦手というより、端から白旗を挙げているのがパイロットのポジションで、航路計算が複雑だから絶対なりたくないと超逃げ腰。小型の飛翔艇や地上車などは人並み以上に動かせます。機械工学はアリに比べれば劣るものの、そこそこのようです。

​痩身のわりに体力もあり、超過勤務にも耐え(2巻)4-5日の間ほぼ絶食状態でも走れる(4巻)タフさ。サーゴルの酒を摂取後に特殊な新陳代謝を得て毒物などに対して強い体質になりました。

​容貌と性格

とにかく背が高い。デカさでは別格のカール・コスティを除けば、残る初期クルー11人の中で1番かもしれません。そして脚が長い。

Dane(デンマーク人)という名が示す通り、blondまたはyellow hairと表記される金髪と碧眼の持ち主で、著者にも確認しましたが、<女王>号のクルーとなったときは18歳でした。本編中(6巻)にも当時は19歳のトゥーイと同じくらいだったという記述があります。

自身では『魅力のない顔」と言っていますが、自己評価がきわめて低いというか控えめな性格なので、実はhandsameだと主張するアメリカのファンもいます。(架空の人物と結婚するなら誰がいいかというサイトで、デインソーソンの名前を挙げていたJanie Broughtonさん、管理人のライバルですw)

性格は基本的におとなしく協調性もあり、主任のヴァン・ライクを目標に、趣味ひとつない勉強一筋のカタブツ努力家。

とはいえ、相反するものを内在させている不思議なキャラクターでもあります。

普段は無口で内向的なのに外交係をこなす。くよくよ悩むわりにさっぱり忘れる。気が長いかと思えばいきなりカッとなる。慎重そうに見えて大胆。馬鹿正直で誠実な反面腹黒い。超がつくほど優しいのに相手によっては容赦ない。

​のちに加わったラエル・コフォートが「矛盾をかかえた難題」と位置づけるのもうなづけるというものです。

​女性に免疫がないわけではないのですが、そのラエル女史がきれいな人であるために、彼女の前ではちょっとアガってしまうという微妙なお年頃。

​猫などの小動物とコーヒーが好き。嫌いなものは権力。

​新米ゆえに初期には失敗もありましたが、責任感が強いのでクルーにも上官にも信頼されています。

後期シリーズではクルーの誰もがヒーローと認める活躍をしているにもかかわらず、前述のように自己評価がシビアなので、本人はまるでそう思っていないというか恥ずかしいからやめて…だそうです。かわいい…

10-07wix.jpg
10-08wix.jpg
10-09wix.jpg

​エピソードと考察

▼ニックネーム

北欧系なので、たまに「ヴァイキング」と呼ばれます。
もともとは1巻でイヤミなアルトゥール・サンズが蔑称として使っていただけで、初期シリーズではこの呼称はそれきりでした。
が、後期シリーズでは、5巻でラエル・コフォートが口にしてから復活しました。最も多用して呼びかけているのはアリ・カミル。リップもたまに。相手がサンズではないし、意図も違うのがわかっているので、デイン自身はそうよばれるのは別に嫌いじゃないとのこと。実際、本人が嫌がってるならアリだって連呼しないでしょう。
基本的にマイルドタイプのデインに、荒っぽい海賊のイメージはいまいち似合わない気がするのですけれど。

▼猫と小動物

シンバッドはもともとヴァン・ライクの猫らしく、彼の部屋が本来のねぐらのはずですが、2巻あたりからはデインの寝棚がお気に入りになってしまったようです。
2巻ではクルーの大半が倒れてしまい、忙しさでデイン自身が寝る暇もない寝棚(バンク)に、灰色の毛皮が丸くなっているのを見るのが「楽しみ」だったという、猫で和める人。

5巻でも害獣退治で負傷したシンバッドの安静のため、寝棚を提供しています。

4巻では、ミュータント化して知性を持った犬(猫でもいい)のような動物に“he”の代名詞を使うところがなんとも彼らしい。レンジャーのMeshler氏は“it”と呼んでいたのですが、デインの影響で“he”にあらためました。

この動物には銃で撃たれそうになったり、噛みつかれたりしたのに、寒さで震えているのを見て自分のコートの中に入れてやり、その後すっかり気に入られて「どこまでも一緒」と言って危険な場所にまでついてくるようになってしまいます。

また、6巻から登場する2匹の猫・アルファとオメガを、遺棄された宇宙船内で目ざとく見つけたのもデインでした。とりあえず少し水を与え、検疫のためにラエルとタウに引渡し、その後「触っていいよ」と言われて喜んで撫でている猫好きさんです。

▼ギャップ

新規メンバーのラエル・コフォートだけならまだしも、最も身近なリップから見てもシャイに見えるというデイン。

役職こそスポークスマンでも、普段はあまりしゃべらないので、内気でおとなしそうに見えるといえば見えそうで、意識したgentleでなく生来のmildタイプなのは確かではありますが。
ただ、デインの視点から描かれている初期シリーズを読んだ限りでは、「そうかあ‥?」と思う点も。だって強情、意地っ張り、けっこう嫉妬も(長くは引きずらないが)してましたよ(笑。

 

初期のデインは、惑星オークションのさい、全員の給料を差し出すという提案がなされても反対を唱える勇気はないと言うし、失策直後は、凹みまくって親しいリップの顔さえまともに見ることができなかったり、後期になっても密航したトゥーイの華奢な手首を捕まえてるだけで罪悪感いっぱいだったりで、小心者絶賛継続中ですか?

と、思わせておいて、一度スイッチが切り替わると、どうにもとまらない大胆さ。夢中でやってるというわりに、けっこう頭で計算していて、意外に冷静なのです。
1巻では、緊迫した状況下にありながら、迷路のパターンに気づき、また、駆けつけたパトロールのライトを背に前方の敵に銃を構え、集中力を途切れさせませんでした。
続く2巻では、貿易界を永久追放されるかもしれないというのに、通商規定を破って船倉の封印を引き剥がすという大胆さ。次いでホーヴァン医師誘拐の実行犯となり、さらに放送局乗っ取りの首謀者ときては、ほんとにきみは新米か?と言いたくなります。果ては銀河系全域に向けた放送のカメラの前で一席ぶつ。度胸ありすぎ。

 

3巻では、何度殺しても生き返る幻術の化物に、レンジャーは逃げ出したというのに、なお銃でねらいを定めるほどの精神力を見せ、4巻でも負傷しながら最後まで戦線を離脱せず、5巻では、今にも爆発しそうな危険物を次々に海に放り込むという荒わざをやってのける。

 

6巻では、密航したトゥーイの処遇をどうするかという話のとき、あのおっかないジェリコの顔をしっかり見て彼女の後見を申し出る‥えええ?いったい誰が内気だって??

同じく6巻、Momoという少年が巨躯のShver人たちに狩りの「獲物」にされているとき、武装した相手に丸腰で立ち向かい、みごと救出。デカいやつらが集団で小さい子になにしてやがると、瞬時に頭に血が上っちゃったみたいです。ステキ…♡

ちなみに6巻でも悪さの実行犯リーダーでした。悪さするときは妙に生き生きして楽しそうな様子。まだまだイタズラ坊主の年代なんでしょう。


 

▼誠実にして腹黒い頭脳派

デインの誠実さを表すその代表が4巻のエピソードです。
デイン、タウ、トルウスワールドのレンジャーMeshler、そして突然変異によって人間に等しい知性をもったゼコー産の動物brachの4人が、謎の敵によって磁気フィールドに閉じ込められたときのこと。

 

このフィールドを潜り抜ける特殊能力を持つbrachに、脱出して少し離れた場所にあるフィールドのスイッチを切るよう、頼むのですが…

ここでかれ、brach(雄の成犬)が、交換条件を出してくるのです。知性を持ってしまった彼は、獣として檻に入れられる生活はもう嫌だ、自由になりたい--と。

 

助かりたい一心のMeshlerは、即イエスと言います。しかしこのbrachはトルウスワールドの研究所に届けられる「貨物」として、<女王>号に託されたもの。預かって運ぶ間だけの管理責任しかない自分に、「人格」がそなわったからと言って自由を与える権限があるのだろうか--とデインは考えます。
ここで「イエス」と言うのはたやすいけれど、後で荷主がノーと言ったらそれでおしまい。自分の返事は嘘になってしまう…。

 

デインはそれを正直にbrachに打ち明けます。ただ、彼が自由になりたいと言うのなら、スポークスマンとして自分にできるだけのことはしよう、と。←自分の命がかかっているというときに、このバカ正直さ!!(でもそこがあなたのいいところ♪デインのやることならなんでもいいさのワタシ)
この誠実さが、brachに伝わったことは言うまでもありません。

しかしこれもかれの側面のひとつであって、本質ではない恐れが…

 

なにしろ舌先三寸で丸め込むのはお手のものという、腹黒No.1キャラ=ヴァン・ライクの愛弟子です。誠実で生真面目…そうに見えて実はかなりコスかったりするのです。

2巻ではいろいろ偽装工作はするわ、ホーヴァン親子を演技でだますわ、つまるところ嘘がうまいということで、7巻でも<アリアドネ>のクルーを相手に、ひと芝居打つようなことをしれっとした顔でやっています。これにはトゥーイもビックリでした。
また、4巻では例のレンジャーに対してなんとなく底意地が悪い。初期には、アリに対してもそういうところがありましたよね。

 

ついでに言うなら、インターソーラー社にも容赦ない!
2巻で大企業の緊急ステーションからの強奪をくわだてた時も「寝ぼけまなこのインターどもの顔面に拳をめりこますくらいのことはしてやって当然」とか言って笑ってる!…やっぱこういうトコは骨太のトレーダーだなあと感じるとともに、意外に腹黒いキャラだよね、と思うのです。いや事実黒いよ、ほんとに。

もともと黒いのか、それとも上司に叩き込まれてそうなったのかはともかく、観察力の鋭いトゥーイも含めて、貨物係は3人ともいろんな意味でオツムが良いのは確かでしょう。

 


▼諸行無常

前期シリーズ、すなわち邦訳版だけを読むと、ほんとうにまだ少年っぽいデインですが、6・7巻になるとかなり大人の雰囲気です。あまりムキになったりせず、妙にあきらめがよいというか、いさぎよい。


2巻の疫病事件で見せた粘り強さはもちろん、4巻でモンスターの脅威に曝されたデインが、生きるために必至に活路を模索していたのに対し、7巻では同じような状況下で、“Death was inevitable.”と自分に言い聞かせているのです。
6巻の冒頭で<女王>号が燃料切れで座礁しかかったときも、トレーダーとしてここまで来られてよかったのだと思おうとしてる、その割り切りのよさはいったい何!?救難信号を出せば助かる代わりに、莫大な救助費用を負う--そのために<女王>号クルーは解散になって…そこで終わりでいいと言うんですか、デイン・ソーソン!?

4巻のデインだったら、何か他に手はないか必至に考えると思うんですね。それでこそ2巻でTV局乗っ取りを発案した彼ではないか、と。

 

そうは言っても…
2巻のときはまだ10代。7巻では、どう計算してもかれはもう20代です。諸行無常を悟ったのか…。オトナになったのね、デイン・ソーソン。ちょっと寂しい気もするけれど、そんな涅槃な境地のキミも好きだよ。


▼成長、そして…

当初はヘマもしでかしましたが、そもそもデイン・ソーソンという人間は、貿易界を目指す素材としてかなり優秀だったのではあるまいか、と思うのです。貿易界が世襲制に支配されつつある中で、何の後ろ盾もなしに訓練所に入り卒業したわけですから。

適正試験はもちろん、けっこう成績がよかったのでは? でなければ、親の七光りで絶対優位のはずのサンズがあれほどデインにからむ理由がないのです。

サンズ一行のおかげで訓練所では苦労したかもしれませんが、もともと協調性はあったので<女王>に配属されてからは、苦手なアリやタウとも3巻までにはすっかりうちとけた様子。もっともアリに限っては、第一印象からしてあまり好感を持てなかったこともあって、反目しまくった1巻の状況を引きずったまま、7巻まで延長戦に突入という部分がなきにしもあらず、ですが。

 

そもそもアリは何かとツッコミが多い、揚げ足取りキャラ。間に入るリップの存在も手伝って、喧嘩するほど仲が悪いわけでもありませんが、2巻の疫病事件の最中でも、デインの偽装工作をアリが軽く見たことから、デインがちょっとムキになったりしています。デインにとってアリは苦手な先輩、アリにとってデインはからかい易いドジな後輩というような関係でした。

ところがこれが後期シリーズでは事情が違ってきたようで、初期にはアリに押され気味だったデインの方がアドバンテージを握っているような気がします。
読んでいると、アリの方が余計な口数が多い分落ち着きがなさげで、ちょっぴり子供っぽい印象を受けます。
一方デインときたら、異星人の声の調子を当てるゲームで、ハズレばかりのアリの黒星をきっちりカウントしている余裕を見せる上に、「これ以上負けが込んだら向こう5年間ぼくの雑用を引き受けてもらうけど、いい?」などと言ってのけるしたたかさ。
もし、8巻があったら、アリは完全な敗北に追い込まれたかも?!

 

7巻に、デイン、アリ、リップの思考パターンといいますか、感情波などを色で表現した記述がありました。2巻のサーゴルの酒と4巻の鉱石が体に与えた影響で、ウィークスを含む4人にだけ見えるらしいのですが、デインは海のようなブルーグリーンでした。その海はseaでなくoceanと書かれているので、大きな広がりを意味していると思われます。まさしくデインのキャパシティーを表しているのではないでしょうか。

このpsi-link(おおざっぱに言ってしまうとセルフコントロールができない精神感応力)でつながった4人が、特に睡眠中は無意識に互いの思念が伝わってしまうと知ったとき、一番動揺していたのがアリでした。クレーター戦争の記憶は、大人になっても生々しく残っているのでしょう。それを他人に吐き出せる性格でないところがアリのアリたるゆえんで、とにかく隠し通したい。
そんなアリを気遣って、デインは非番になっても彼と同じ時間帯に睡眠をとることをさけ、黙々と仕事をしていました。そしてそれを誰にも言いません。1巻でひとつひとつつっかかっていた少年は、いつのまにか寡黙な青年に成長していました。

 

7巻冒頭で貨物主任になったデイン・ソーソン。1巻ではまだサマにならないと評された貿易界の褐色の制服が、さぞかし似合う男になったことでしょう。

bottom of page